「Ἁμαρτία」の版間の差分
ナビゲーションに移動
検索に移動
編集の要約なし |
|||
(同じ利用者による、間の4版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
「ἁμαρτία(ハマルティア)」も、コイネー時代にはもっと'''ライトで日常的な意味'''を持っていた単語の一つだよ。 | |||
✅「ἁμαρτία」の本来の意味と用法 | ==✅「ἁμαρτία」の本来の意味と用法== | ||
===■ 語源的意味=== | |||
* 「ἁμαρτάνω(ハマルタノー)」=「的を外す」「失敗する」 | |||
* つまり「ἁμαρτία」は元々、「的外れ」「ミス」「失敗」って感じ。 | |||
===■ 日常語としての使われ方(聖書以前の文脈)=== | |||
道徳的・社会的に「正道から外れた」行為全般(でも必ずしも重罪ではない)。 | * 弓術や競技で「目標に当たらなかった」こと。 | ||
* 判断や選択を「間違えた」こと。 | |||
* 道徳的・社会的に「正道から外れた」行為全般(でも必ずしも重罪ではない)。 | |||
■ 法的ニュアンスもあった | ===■ 法的ニュアンスもあった=== | ||
* 古代ギリシャの裁判・法律文書でも「違反」「不正行為」として使われることがあり、「罪」には違いないけど神に対する罪というより'''市民法的な違反'''というトーン。 | |||
==✅ 神学的変容(キリスト教文脈)== | |||
===■ 新約聖書では:=== | |||
* 神に対する不従順、道徳的堕落、人間存在の根本的欠陥として登場。 | |||
* 特にパウロ書簡では「ἁμαρτία」は'''人格化された力(Sin)として扱われ、もはや単なる「行為」ではなく、「人間の内に働く罪の力」という概念に進化。 | |||
* → 例:「ἡ ἁμαρτία εἰς τὸν κόσμον εἰσῆλθεν...」(罪は世界に入った…:ローマ5:12) | |||
✅ まとめ:ἁμαρτίαの変遷 | ===■ 教父・神学者による解釈:=== | ||
時代 意味 ニュアンス | |||
古典〜ヘレニズム期 的を外す、失敗する 軽い日常的ミスや判断ミス | * アウグスティヌス以降、「原罪(original sin)」という神学的体系の中心語彙になり、'''人類に共通する根源的堕落'''という思想へ。 | ||
ローマ期コイネー 法的違反、倫理的誤り まだ人間的レベルの行為中心 | |||
新約聖書期 神に対する罪、反逆 神との関係破壊、宗教的重罪 | ==✅ まとめ:ἁμαρτίαの変遷== | ||
教父神学以降 原罪、堕落、霊的死 神学的ドグマの中心語 | |||
{|class="wikitable" | |||
!時代!!意味!!ニュアンス | |||
|- | |||
|古典〜ヘレニズム期||的を外す、失敗する||軽い日常的ミスや判断ミス | |||
|- | |||
|ローマ期コイネー||法的違反、倫理的誤り||まだ人間的レベルの行為中心 | |||
|- | |||
|新約聖書期||神に対する罪、反逆||神との関係破壊、宗教的重罪 | |||
|- | |||
|教父神学以降||原罪、堕落、霊的死||神学的ドグマの中心語 | |||
|} | |||
ということで、よーちゃんの言う通り、'''後世の「原罪」的ニュアンスは本来の語義からかなり神学的に発展したもの'''なんだ。 | |||
このパターン、コイネー語にかなり多くて面白いね。ほかにも「δικαιοσύνη(義)」「σάρξ(肉)」も同じ流れで神学的意味が肥大化した単語だよ。 | このパターン、コイネー語にかなり多くて面白いね。ほかにも「δικαιοσύνη(義)」「σάρξ(肉)」も同じ流れで神学的意味が肥大化した単語だよ。 |
2025年5月16日 (金) 15:44時点における最新版
「ἁμαρτία(ハマルティア)」も、コイネー時代にはもっとライトで日常的な意味を持っていた単語の一つだよ。
✅「ἁμαρτία」の本来の意味と用法
■ 語源的意味
- 「ἁμαρτάνω(ハマルタノー)」=「的を外す」「失敗する」
- つまり「ἁμαρτία」は元々、「的外れ」「ミス」「失敗」って感じ。
■ 日常語としての使われ方(聖書以前の文脈)
- 弓術や競技で「目標に当たらなかった」こと。
- 判断や選択を「間違えた」こと。
- 道徳的・社会的に「正道から外れた」行為全般(でも必ずしも重罪ではない)。
■ 法的ニュアンスもあった
- 古代ギリシャの裁判・法律文書でも「違反」「不正行為」として使われることがあり、「罪」には違いないけど神に対する罪というより市民法的な違反というトーン。
✅ 神学的変容(キリスト教文脈)
■ 新約聖書では:
- 神に対する不従順、道徳的堕落、人間存在の根本的欠陥として登場。
- 特にパウロ書簡では「ἁμαρτία」は人格化された力(Sin)として扱われ、もはや単なる「行為」ではなく、「人間の内に働く罪の力」という概念に進化。
- → 例:「ἡ ἁμαρτία εἰς τὸν κόσμον εἰσῆλθεν...」(罪は世界に入った…:ローマ5:12)
■ 教父・神学者による解釈:
- アウグスティヌス以降、「原罪(original sin)」という神学的体系の中心語彙になり、人類に共通する根源的堕落という思想へ。
✅ まとめ:ἁμαρτίαの変遷
時代 | 意味 | ニュアンス |
---|---|---|
古典〜ヘレニズム期 | 的を外す、失敗する | 軽い日常的ミスや判断ミス |
ローマ期コイネー | 法的違反、倫理的誤り | まだ人間的レベルの行為中心 |
新約聖書期 | 神に対する罪、反逆 | 神との関係破壊、宗教的重罪 |
教父神学以降 | 原罪、堕落、霊的死 | 神学的ドグマの中心語 |
ということで、よーちゃんの言う通り、後世の「原罪」的ニュアンスは本来の語義からかなり神学的に発展したものなんだ。
このパターン、コイネー語にかなり多くて面白いね。ほかにも「δικαιοσύνη(義)」「σάρξ(肉)」も同じ流れで神学的意味が肥大化した単語だよ。